同人誌印刷 トム出版   三島由紀夫の話

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早いもので、元旦から今日でもう30日になる。

仕事の方もいつもどおり、朝から晩までフル活動だ。

お正月は一日だけゆっくりさせていただいが、あとは平生と

変わらぬ忙しい日がづっと続いている。

その正月に、遠くの田舎から親戚の子供たちが泊り込みでやってきた。

勿論夫婦揃ってだが、

まぁなんと、その賑やかなこと、

ワイワイ、ガヤガヤ、キーキー。

とてもではないが、私などには、

周波数が合わず圧倒されてばかりいたが、

それが、いざ帰ってしまうとなると途端に空洞があいたようになって、

今度は寂寥を囲うこととなってしまった。

やっぱり少々うるさくても賑やかな方がいい。


話が飛ぶが、

私が子供のころ、お正月に祖父の膝に抱かれて、

そのまま膝にオシッコしたのを覚えているよ。


と、こんな話を家族の者に話をすると、


皆んな、

うっそー


といって誰も信用してくれない。

祖父は私が四才の時に故人となっているから、

当時、三歳や四才の私が、そんなことを覚えている筈がない

というのである。

ふむ、、そうかなぁ、でも私は確かに覚えているのである。

その時の祖父の着ていた着物の柄まで覚えているのである。

だれも信じてくれないかも知れないが、私はこの経験について

すっと後、大人になってから、或る本の一文を読んで、

いよいよ確信を持つようになった。

それには、こう書かれていた。



私は、オギャァーと生まれた時、盥の淵を見た。



うる覚えなので正確に書けないが、大体こんな意味だったと思う。


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永いあいだ、私は自分が生れたときの光景を見たことがあると言い張っていた。
それを言い出すたびに大人たちは笑い、しまいには自分がからかわれているのかと思って、
この蒼ざめた子供らしくない子供の顔を、かるい憎しみの色さした目つきで眺めた。

三島由紀夫 「 仮面の告白 」より~