同人誌印刷 トム出版  犬と寒月

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冬になると思い出す。

若かったころ、仕事から夜遅く帰宅して、深夜に夕飯を食べる。

六畳一間の居間兼、勉強部屋で、さてこれから仕事の残りを仕上げるのだ。

裸電球が一つ、部屋の中はだれもいない。表の犬走りの小屋に愛犬が一匹。

私の帰りをひたすら待っていてくれた犬だ。

可愛そうに寂しかっただろう。

エサを与え、温かいミルクをご馳走してあげよう。

軽く頭を撫でながら、声をかけてやると、ワンちゃんは嬉しそうに

身をよじらせながらシッポを振る。

それから、レポートやら何やら書き上げて、ようやく明日の準備が

終わったのが午前2時。

さて、と、

ワンちゃんを散歩させてあげよう。

私はワンちゃんをつれて軒先を出た。冷たい空気が肌を刺す。

見上げるとお月様が白い光を煌々と放っている。

夜道も田んぼも白く光っている。

ただ一つ、ワンちゃんの影だけが黒々と動いているばかりだった。

よし、明日はいい天気だな、

もっともっと勉強して、

立派な人間になって、お金もそこそこできたら、

お前にもっといいものを食べさせてやるからな、、、。

そう声をかけると、

ワンちゃんの尻尾の黒い影がうれしそうに揺れた。


軒を出て 犬 寒月に照らされる  -------  藤沢 周平



私はこの句がとても好きだった。

誰にも語らず心の奥底にひそかにとどめた大切な句だったが、

ワンちゃんだけにはしょっちゅう聞かせた句でもあった。

一見、寂寥感の漂うが如きに見えるこの句も、私にはそれ以上に勇気と

力を与えてくれそうな希望に満ちた句のように思えるのだった。


そのワンちゃんも昨年しずかに息を引き取った。

私をいつも励ましていてくれたあの子が、、、。


吾を待つと 軒端の犬の 月悲し  -----  筆者


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