同人誌印刷 トム出版  小峠の山鳥

ちょっと間があいたが、つづきを書こう。

私は尾根伝いに熊ケ岳から小峠に向っていた。

丁度そのとき、うねうねとまがった小径の向こうから登山服の二人が

こちらへやってくる。

夫婦連れのようだった。

目前まで迫ったとき、先方から

こんにちは、、

と声がかかった。

50すぎくらいの年配の方だった。

いやぁ、こんにちは、小峠からこられました?

はい、もうちょっとですよ、

とても明るい感じのご婦人だった。

ご主人の方もにこにこしながら、

「坂鳥の朝越えまして」

ね、、、、、。





私はその言葉に、おもわず手を打ちそうになった。

岩ケ根、禁樹押しなべて登ってこられましたか?

と切り返すと、

上品そうなご主人は、




禁樹(さえぎ)はありませんでしたが、さすがに坂道と岩ケ根には

疲れましたよ。



と言いながらも、とても良い表情をしていた。

よし。先を急ごう。

私は背のリュックをゆすった。



30分も歩くと、道が二つに分かれていた。

右へ折れると大宇陀へ下りる。

まっすぐ行くと標高の観測点のある音羽山だ。

なるほど、ここが小峠らしい。

私は躊躇することなく右へ折れた。

道は一段と細くなり、しかも傾斜がはなはだ嶮しい。

おまけに所々に残雪があったりして足許が滑るのだ。

私は用心しながら一歩いっぽ岩を踏みしめながら下りていると。

おや、山鳥のようなかなり大きな茶色の鳥が、

ふと目の前に現れた。

私の下がっている小道の前方4〜5メートルくらいのところを

ヨチヨチ歩いているのだ。

時々私の方を振り返りながら、

こっち、こっち

と言っているようで、まさに私を誘導しているみたいだった。

ははーん、私はピンときた。

近くに自分の巣でもあるのだろう。

もしかすると雛がいたりして、それを警戒しているのだ。




大丈夫だよ、おじさんは何もしないから、、。



私は言い聞かせるように声をかけた。

しかし山鳥は委細かまわず尚も私を誘ってヨチヨチ歩いている。

時々止まって、またこちらを眺めている。

また歩きだす。

私はこれを見てとても感動した。涙が溢れそうだった。

本能と言わば言え。

こんな動物でも必死に我が子を守ろうとする、

その情愛の深さは、果たして、

今の我々は何か忘れ物をしてはいないだろうか。



父母に対してぞんざいな言葉を使う子。ひどいのは、暴力

を振るったりする子。

父母も子に対して人格を傷つけるようなことを平気で言う親。

どこか間違っているように思えてならない。




親想う心に勝る親心今日のおとづれ何と聞くらん 〜

吉田松陰



少し話しが横道へそれてしまったが、

次回は本筋へ戻そう。



つづく

その他日記ブログ 日々のできごと

人気ブログランキング

BlogPeople